Verbrechen

2010年11月14日

フランクフルト空港の売店でかなりの時間をかけて一冊のペーパーバックを選び出しそれを買おうとすると、店員さんに「とてもよい本を選んだよ、あなた」といわれた。ドイツ語には「お目が高い」という表現はあるのだろうか。その本は、ベルリン在住の刑事弁護士だという人(シーラッハ)の書いた「犯罪」という本で、後で聞いたら超ベストセラーらしい。短編集なのだが、それぞれが泣かせる話で、たしかにやめられなくなってしまう。ストーリーテラーとしてなかなかの腕前ということであろう。フィクションに違いないのであるが、さすがに弁護士らしく、責任主義の原則とか、過剰防衛とか、さりげなく法律問題も解説している。ドイツアマゾンを見たら150を越えるコメントがあるが、多くは5つ星だった。それでも1つ星が何人かいる。このひねくれ者といいたくなる。

フランクフルトからヴュルツブルクに移動し、駅でヒルゲンドルフ教授に迎えられた。それまでずっとメールのやりとりはあったが、会ったのははじめて。彼には「日本の理論刑法学の現状について」というテーマの(講演会ではなく)スタッフセミナーを開いてくれるよう希望したのであるが、エアランゲンからフランツ(・シュトレング)が来てくれ、また、ケルンにいる小池君や深町君らも遠路駆けつけてくれて、なかなか良い時間が持てた。こっちが分からないことはドイツの連中も分からない、ということをあらためて確認できた(当たり前か)。実は、この催しはどうしても実現したかったし、またその準備のために(時間をかなり無理して捻出して)相当の時間をかけた。自己満足であるかもしれないが、私なりの宮澤浩一先生への追悼の儀式だったのである。参加して下さったドイツと日本の先生方には、だしに使ったようで申し訳ないが、お許しいただきたい。先週土曜のお別れ会に引き続き、これで先生とのひとまずのお別れを果たした気持ちでいる。

木曜にザールブリュッケンに移動。何人かの人と夕食をともにしながら、近未来のザール大学と慶応の関係について話し合った。ザール大学側に若手の後継者が見つからないことが大きなネックになっている。また、ザールの中で複雑な人間関係があり、こちらもその双方のグループと別個に話をしなければならない、という状況があってホントややこしい。もうここまで足を突っ込んだからには逃げることは出来ないが、何より刑法関係で情報交換・意見交換できる人間がいないことは私にとり致命的である。まともな刑法学者さえいれば、私としてもやる気が全然違うはずだが・・・・。

翌日金曜には、近郊のメトラッハというところにあるお城で、マグマ大使、いや「ザールラント大使」というのに任命された。任命式の後、州首相のペーター・ミュラー氏(現在は、連邦憲法裁判所判事)の横で夕食をとらされ、なかなかしんどいものがあった。メトラッハは、ヴィレロイ&ボッホで有名な町(というより村)で、なかなかよい雰囲気がある。本当にマグマ大使になりかねないので、長くなりすぎた髪を切ろうと、小さな美容室に入った。おそらく以前はかなりの美女であったに違いないおばさんに髪を切ってもらった。何でここに来た、と聞くので、ザールラント大使に任命されるんだと答えたら、それはすごい、テレビに出るよ、と彼女はいう。そうしたら、あなたが切ったばかりのヘアースタイルが放映されることになりますね、と応じた。

翌日の地元新聞には、州首相と並ぶ3人の新任大使の大きな写真が出たが、私の名前がProfessor Itaoとなっていた。イタオ教授はひとりだけ笑っていない。