蒼いフォトグラフ

2010年5月2日

出張からの帰り道,松本隆が作詞した曲を集めたアンソロジーを購入する。われわれの世代は,文学作品や哲学書よりも,松本隆吉田拓郎の詩に影響され,思想を決定された気がする。高校時代から大学時代にかけて,太宰治高橋和巳廣松渉などを少し読んだ記憶があるが,どこまで影響されたかわからない。教養主義の没落とかいわれるが,もしその言葉が当たっているのなら,それはすでにわれわれの世代にも当たることになる。

私に,松本隆がドラマーをしていた「はっぴいえんど」を教えてくれたのは,今は勤務先の大学のすぐ側にある大きな病院の副院長をしている中村聡君である。レコード店で「風街ろまん」のLP(CDではない!)をすすめられるまま買った。「風をあつめて」の一節を講釈してもらい,目からうろこが落ちた記憶がある。そういえば,「瞳はダイヤモンド」の「あなたの傘からとび出したシグナル・・・・」の箇所も天才的だと思っている。

中村聡君であるが,2月に連絡してきて,知り合いの中からその病院の倫理委員会の委員をしてくれる人を仲介してくれと頼まれて,ある方に連絡をとり,その同意をもらってご紹介したところ,その直後に,その先生が新聞にいっせいに取り上げられるようなお国の重要なポストに就かれることとなり,その話はご破算になるということがあった。ただ,中村君からは「君,すごい人を紹介してくれたんだなあ」と逆に感謝される始末。

ところで,医者にとっての患者の診療にあたるものが,大学教師にとっては授業であろう。私は,今年は授業を1つも担当しないことになった。日本にいてこういうことは助手のとき以来である。もちろん,それは大学の役職との関係であり,あいかわらず研究に割ける時間はごくわずかでしかない。このGWは、5月中旬と下旬に予定されている2度のヨーロッパ出張で行わなければならない3つの講演原稿の執筆で完全に奪われることになる。こそこそと時間を盗むようにしてパソコンに向かい,怪しげな内容を怪しげなドイツ語で打ち込んでいく。講演の場所は,スルビーチェ(ポーランド),ザールブリュッケン(ドイツ),イスタンブール(トルコ)とバラエティに富んでいるが,移動のことを考えると気が遠くなる。

そういえば,松本隆が,詩を書くとき,1行目が決定的で,書き出すまでに時間がかかるが,これぞという言葉が出ると,後はすっと行く,といったことをどこかで言っていた。論文を書くとき,最初の書き出しのところで,いつもその松本隆の言葉を思い出す。特にドイツ語のときはそうだ。何か書いても,またそのフレーズか,と嫌になってしまい,冒頭の文章がなかなかできない。

ところで,いま心の中でちょっと期待していることがあるのです。それはアイスランドの火山がGW終了直後に,もう一度大噴火してくれること,あるいは,ギリシャ財政破綻のため,ヨーロッパにおける国際会議がすべて中止されること,おっといけない,いけない。心の中の悪い子チャンは黙っていなさい。

 いま一瞬,行為無価値論が好きよ
 明日になればわからないわ
 学界の勢力地図を見たとき
 そうつぶやいた

 通説は結果無価値論になる
 その日が来ても
 輝いた季節 忘れないでね
 行為無価値論