So What

2007年5月1日

小川隆夫氏の『マイルス・デイヴィスの真実』を読みながら、以前のCDを聴く。昔から、「カインド・オブ・ブルー」と「1958マイルス」の音の感じが、それ以前と、またそれ以後と比べても非常に違うという感覚があった。小川氏の本を読んで、それがビル・エヴァンスという白人的要素のためということが分かる。そう考えると納得がいく。それにしても、普通だったら、「カインド・オブ・ブルー」の路線をしばらく継続するものだが、と思う。そういえば、キース・ジャレットが、「マイルスは、過去のものを繰り返すぐらいなら、どんなにひどいメンバーと一緒でもよいから新しい音楽をやることのほうを選んだ」と語っていたっけ。

マイルスを聴きながら、刑法総論関係の最近の論文を収録した『変革の時代の理論刑法学』の校正作業をする。自分の過去の論文(14編)が新しく印刷されたものを読み直し、文章表現などをほんの少しずつ修正しながら、簡単な解題(自分の論文について解説する文章でも「解題」というのかしら)を書く。とにかく解題を書くのにやたら時間がかかる。それにしても、慶應義塾大学出版会の岡田智武さんが無数に入れてくれる丹念な鉛筆書きのコメントを見ると、頭が下がる。こんな私の論文集をぜひ出したいと申し出てこられ、しかも本のデザイン等についてデザイナーの方とあれこれと一所懸命考えてくれるのだから、本当に申し訳ないことである。頭が下がって地面にめり込む思いである。 

収録した論文は、最も以前のものでも10年ほど前のものであるが、古いものであればあるほど未熟だなあと感じる。しかし、それでも全体として進歩の跡などは感じられない。手をかえ品をかえ、私にとってのSo Whatとそのバリエーションを吹き続けているのだ。それがあのような名曲であればまだ救われるが、そうではないのだから「あなた、噴飯物よ」(恩師、中谷瑾子先生の口調を真似ながら言う)。

それにしても、On Green Dolphin Street、心に染みる。