Smile Away

2007年4月20日

弘文堂の新論点講義シリーズの一冊として書いた『刑法各論』の見本ができて、弘文堂の北川陽子さんが届けてくれる。実質的には、かつての論点講義シリーズのものの改訂版であり、春休みにやった仕事の1つということだ。

年をとった証拠なのだろうけど、このところ、やたら「文章のにおい」が気になる。できるだけ透明の、クリスタルのように透き通った文章が読みたいし、自分でも書きたい。この刑法各論の旧版の「はしがき」の文章は最悪である。テンションが高く、気取っていて、大げさで、二度と読みたくない。今はその対極にある、無色透明・無臭の文章が理想である。今回の新版のはしがきとあとがきは、そういう文章を書こうと思って書いた。でも、なお透明度が十分でない。

『基礎から学ぶ刑事法』という本を、ドイツで知り合いになった、研究所の助手(今は検察官をしている)の奥さんが日本人であるというので、差し上げたことがある。数日後、その助手が私のところに来て、「お前ははしがきに何を書いた?」と尋ねる。けげんな顔をすると、奥さんがはしがきの部分を読んで涙をぬぐっていたというのである。どこかが、かつて学生であった彼女の心の琴線に触れたのであろう。しかし、それにしてもテンションの高い、気取った、いやらしい文章である。たまたま波長があった人にはいいのかもしれないが、学術書の文章は、誰に対しても、余計な感情を引き起こすことなしに、過不足のない情報を伝え得る文章でなければならない。においの強い文章はもうごめんだ。

クリスタルのように透き通った文章を読みたい、そして書きたい。