Never Let Me Go

2008年12月15日

著名なロクシン教授から,来年の刑法学会60周年記念大会における記念講演の原稿が届いた。締切りよりも1月も早い。メールが来るテンポも異常に早く,こっちが1通出すと向こうが3通書いてくるというペースである。彼の秘書が書いているようであるが,文章は彼のものである(自筆のメモを自宅から秘書のところにFAXで送るらしい)。観念説(意思説)によれば,作成名義人はロクシン自身である。定年後,時間があるから,というようなことではあるまい。あれだけのスーパースターなのだから,国内外から講演やその他寄稿の依頼はひっきりなしのはずだ。私のところに送られてきた論文も,最近の議論をフォローし,新しい文献を網羅したものだ。そういえば,10年あまり前に,比較的近いところから,彼の天才ぶりを目撃し実感する機会があった。ああいうものを一度見てしまうと,「天才」などという言葉をそう簡単に使うことは出来なくなる。

ところで,うちの大学の法学部は,ドイツのザールラント大学法学部と交流がある。2年に一度,共同のシンポを開いている。来年はそのシンポが行われる年にあたっている。法学部(私は,現在そこに属していない)から,来年3月末までに行えば,うちの大学の150年記念の行事として行える,そうしよう,という声が出てきた。今から計画して3月にシンポというのは無謀であるが,取りあえず頼んでみてくれというので,先ほどメールを出したら,5分後に「了解。よしやろう」という内容のメールが来た。こうして来年,積極的に関わらなければならない国際シンポ(ただし,すべてドイツ系)は,すでに4つ目となった。そうして,実は,かなり前から計画されている国際的な催し(そこでは講演をしなければならない)がおそらく具体化される予定である。そうなると5つになる。

そして,さらに一昨日,ドイツ・トリア大学のキューネ氏から,すげえメールが来て,宇宙の果てまでぶっ飛んだ。さっき月の周りを一周して戻ってきたところだ。欧州人権規約に相当する「アジア人権規約」を作りたいので協力してほしい,という,およそ夢想ないし絵空事のような内容である。まずは,中国,韓国,台湾,日本の代表者を来年の春にドイツに集めたいので,来てほしいというのだ。メンバーを見ると,各国の元検事総長とか,元憲法裁判所裁判官とかいう名が並び,日本だけ「井田良」である。こうなると,ギャグというか,噴飯物というか,同じ噴飯でも,300メートルは噴飯するであろう噴飯物である。いい加減な内容の返事を書いたが,加藤克佳氏(現在,専修大学)であれば,「カンベン・マッヘン」,というであろう(「マッヘン」はドイツ語のmakeであり,したがって,勘弁するという意味になる〔わけはない〕)。

とにかく,国際交流は大変だ。お正月休みの課題は,ドイツの,ある高名な検察官(Heinz Stöckel氏)のための祝賀論文集への寄稿論文を書くことである。Duncker & Humblotという有名な出版社が出版するので,きっときちんとした論文集になるであろう。こういうところにまともなものを書かないと日本人としてバカにされる。急に,ナショナリストになってみたりする。

ということで,今日もパソコンに向かい,Robert Lakatos TrioのCD(澤野工房)を聴きながら(すごくいい!),辞書で確認することもせずにめちゃくちゃなドイツ語を書きつづり,そのままメールとして送信する。仕方がない。Es gibt keinen Shikata! 向こうが愛想を尽かすまでこういう関係を続けていくほかはない。