Do Nothing Till You Hear From Me

2009年12月13日

ドイツで7回ほど冬を越えたことが奇跡に思えるほど寒さに弱いので,エアコンなしに書斎で仕事をすることはできない。11月にエアコンが壊れたことが判明したとき,躊躇なく新しいものを取り付けることを決めた。今度もダイキン。コーヒーメーカーとシェーバーはブラウン,自動車はマセラティ,エアコンはダイキン,誤想防衛は制限責任説と決めている私はもちろんダイキンを注文した。

問題は,本と書類とゴミの山からなる書斎の中に,工事の人がどうやって入るかだった。私でさえ,床が見える部分がなく,イスに座るときは,ロクシンとウェルツェルの教科書および聖書を踏みつけ,本の山の間をすり抜けて,山を崩さぬように注意しつつ,もし崩したらそのまま放置しながら,滑り込むように椅子に座るのであるから(私はいつもF1のコクピットに座っている感覚を味わっている),ここで工事を行うのは絶対的不能犯である。

そこで,私は決心した。机のまわりと,エアコンをつける予定の壁のあたりだけ,掃除をすることを。ほぼ1日を費やして作業をしたが,見つからずにあきらめてすでに新規購入した本を20冊ほど,ゴキブリの死骸を10体ほど,1回しか聞いていないCDを30枚ほど,無意味な書類と極秘書類をいやというほど発見した。そして,その中に発見したのだ,開封されていない手紙を10通ほど。

ほとんどは無意味な手紙であったが,うちの1通は,2003年12月1日付けの手紙で,ゼミの教え子が,法科大学院への推薦状を依頼する内容の手紙であった。到着してすぐに書斎の机と壁の間に落ちて,そのまま埋もれていったのであろう。ぎっしりと書かれた3枚のもので,きわめて丁重な内容で,自分はそうは思わないが,もし万が一推薦してもらえる資格があると先生が考えるのであれば,12月19日までに返事をほしいと綴られてある。

返事を受け取らなかった彼は,それを私の拒絶の意思の現れとして理解したことであろう。その後,この学生は,立派な法科大学院に合格し,立派な成績で司法試験に受かり,立派な事務所で弁護士として活躍している。しかも,折りに触れて,私のところに何度も挨拶に来ている。

今となっては,返事をもらえなかった悔しさが,1つのバネになって現在の彼をつくっていると考えでもしない限りは,心が痛んで仕方がない。先ほど,6年遅れで推薦状つきの手紙を彼に宛てて書いたところだ。